ECマーケットのグローバル概況。COVID-19前後のEC市場と消費者の変化。後払い決済「BNPL」の普及 

近年、世界的にEC市場や消費動向の大きな変化がみられます。今回はパンデミック前後のEC市場をめぐるトレンドをざっくり眺めます。海外ECの戦略策定の参考に、EC市場の世界的な傾向を把握してみてはいかがでしょうか。 

1. 食品のオンライン販売の急成長 

日常の食材や食品は買い回り頻度が高く、鮮度の関係もあり、販売チャネルはリアル店舗が大半でした。しかし、世界的なパンデミックにより、「非接触による購買ニーズの誕生」「顧客層の大幅な拡大」の現象がみられました。 

外出制限に伴う「巣ごもり需要」の急増 

世界中の都市でロックダウンが実施され、生活必需品の店舗以外の営業停止や外出規制が行われました。その結果、消費者のECシフトが進行、実用性では来店購入にかなわない食材や食品ですら、非接触の安全性を求めてオンラインで購入されるようになりました。欧米の先進国だけでなく、東南アジア諸国やインドなどの新興国も同様です。 

加えて、外食産業の営業規制や、消費者の利用忌避もあって、飲食店の食事配送サービスの利用も急増、Uber Eatsや各国ローカルのサービスが一躍人気になりました。 

ECの利用者は若い世代が中心でしたが、コロナ禍をきっかけに、それまで関心のなかった中高年にまで利用が広がり、顧客層が大幅に拡大したのも特徴的です。目新しい購入形式に利用者は当初戸惑ったものの、ECの社会的な広まりと定着によって慣れていったようです。 

販売カテゴリが拡大したのも大きいです。日持ちする加工品や、嗜好品だけでなく、通常の一般食材・食品の販売実績が伸長しました。ただ、利便性を考えると、一般食品の購入においてECは実店舗の補完にすぎず、購入チャネルの変換にはイノベーションが必要でしょう。また、長期在宅による食の需要の変化、また持て余した時間を有意義に過ごしたいとの動機で売れ筋となったアイテムもありました。

2. 新規参入者の増加 

パンデミックによる営業縮小と売上低下を余儀なくされ、状況打開のためEC市場に参入する業者が急増しました。 

2020年以降、各国でEC参入者が増えたのは、以下の素地があったためです。 

  • 世界的な携帯端末とインターネットの普及 
  • ECシステム構築の容易さ 

中国やその他の新興国は、先進国の普及段階を一足飛びし、消費者は最新のデジタル環境を手にしています。先進国、新興国問わず、ECストアにアクセス可能な消費者が数多くいます。 

さらに、現在は世界中にECプラットフォームが存在し、EC出店のハードルが低くなっていることも新規参入が増えた原因です。各地域の大手ECモールに出店するだけでなく、Shopify等のECストア構築サービスを利用した独自ストアの出店も容易になっています。 

3. 決済方式の変化

このところ、消費者の決済手段が世界的に切り替わる兆しがみえます。リアル店舗での決済手段の変更は、EC決済にも影響しそうです。

後払い決済「BNPL」の普及 

欧米豪、東南アジアでは、若年層を中心に後払い決済の「BNPL(Buy Now,Pay Later)」が支持されています。ECでの決済手続きが簡単で、利用手数料が不要、欧米圏は分割払い(上限あり)でも利息はつきません。与信審査も厳しくなく、欧米は若年層を中心に、また金融制度が未熟な新興国の消費者に利用されています。2020年以降のEC市場の拡大により、決済手段としての存在感が増しています。 

現金からキャッシュレス決済への移行強まる 

パンデミック以前から、海外諸国でも現金決済からキャッシュレス決済への移行がみられます。 

  • クレジットカード、デビットカード 
  • モバイル決済 

カード決済とモバイル決済は実店舗での支払いのほか、電子決済との親和性からEC決済にも使えます。年々モバイル決済の取り扱い事業者が増え、現金決済から非接触のモバイル決済への移行が進んでいます。 

4. 消費急減と回復&サステナブル消費

パンデミックで起こった世界的な消費の減少と回復、また昨今のトレンドであるサステナブル消費を紹介します。 

パンデミックの消費急減と急回復 

パンデミック直後、世界的に消費者の購入機会が奪われたため、2020年の第一四半期から消費の急減に見舞われました。しかし、地域によって期間に差はあれど、消費はほぼ回復したといっていいでしょう。 

政府支援があった米国は数カ月程度、低成長の欧州は1年で消費がほぼ回復しています。新興国の消費回復はまちまちで、数カ月から1年くらいです。ただ、高齢化が進む国々では成長鈍化と消費低下は否めず、パンデミック以前のような消費回復は今のところ難しそうです。 

今後、世界に共通する消費の不安要因として、物流の停滞とインフレ懸念があげられます。しばらくは世界の物流事情や経済情勢に注意したほうがよさそうです。 

サステナブル消費 

20世紀末ころから人の活動が要因とみられる環境破壊と気候変動、生態系への影響が広く問題視されるようになり、環境保護の「サステナブル」、さらには人の社会生活も含んだ「SDGs」の世界的な取り組みがなされています。 

一般社会にもサステナブルやSDGsの概念が浸透し、大量消費からエコで労働福祉に配慮した商品・サービス、システムを選ぶ動きが広まっています。44歳以下の世代で利用が多くなるほか、地球環境に配慮しているなら少々割高でも購買動機につながるとの調査もあります。ただし、消費者にとっても「サステナブル」である必要があり、賛否ある政府規制など、消費者心理を見誤ると離反される恐れがあります。 

参考文献https://institute.dentsu.com/wp-content/uploads/2021/12/%E3%82%B5%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%8A%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%882021-1.pdf

5. 実店舗との連携 

近年、OMO(Online Merges with Offline)やO2O(Online to Offline)といったデジタルと実店舗の連携がみられます。 

OMOはO2Oの進化系ともいえる概念で、良質な顧客体験のためにオフライン施策もオンライン施策も柔軟に組み合わせて提供します。O2Oは昔からよくある来店キャンペーンのオンライン展開です。 

OMO施策の例として、飲食店のオンラインオーダー、中国のスーパーの食品宅配があります。パンデミック直後は、商品のオンライン購入手続きとドライブスルー受け取りのサービスが好評を博しました。 

O2Oにはセールやイベント開催の告知、デジタルクーポン配布など古典的な方法があります。アナログと違い、販促効果が明瞭にわかるため、国や地域を問わずO2Oは広く活用されています。昨今は個人情報の保護規制もあって、パーソナライズ化した情報提供は下火になっているようです。

6. 越境ECの堅調さと新規参入チャンス 

越境ECは世界各地にある業態で、近年のEC市場の成長とともにチャンスが広がっています。多くのECプラットフォーマーで多言語や外国通貨の対応が進み、出荷・配送情報が明記されるため、ユーザーが安心して利用できる基盤が整っているのも越境EC拡大の要因の一つです。 

とりわけ、中国は国策として越境ECを推奨しており、さらにパンデミックによる海外渡航制限もあって海外製品の購入需要が増加中です。ネット通販の小売額のうち、越境ECは2020年の約1%から2021年上半期には5.7%になり存在感が高まっています。

また、新たに市場が開放され、参入機会が生まれてもいます。EC歴が浅く、取引がローカル中心だったフィリピンでも、国外の事業者の参入を受け入れました。 

まとめ 

世界的なデジタルシフトが進み、ECも同様に一般的になりました。パンデミックを機に、EC認知の定着と利用者層の大幅な拡大、消費者もずいぶんEC慣れしてきています。 

越境EC事業に興味がある、または海外ECの展開など、気になる点がありましたら、お気軽にお問い合わせください。 

この記事を書いた人

野口慎平

GDX 事業責任者 兼 UDX株式会社ゼネラルマネージャー。
新卒で大手外資系総合コンサルティングファームにビジネス&テクノロジーコンサルタント職として就職。2016年よりプルーヴ株式会社に法人営業職として入社。慶應義塾大学理工学部・同大学院 理工学研究科電子工学修了。
海外SEOとマーケティングオートメーションを軸としたデジタルマーケティングを得意とする。
Salesforce Pardot甲子園2021優勝

取得資格:
応用情報技術者、IPAプロジェクトマネージャ、上級ウェブ解析士、IoTコーディネーター取得
Salesforce認定アドミニストレーター