中国の越境ECに興味のある方向けに、中国EC市場の概要と参入においてのポイント、目ぼしいトレンドを紹介します。海外ECを検討しているなら、世界一の規模の中国マーケットはぜひ押さえておきたいですね。
目次
1. 中国ECの規模と主要チャネル
まずは中国ECを概観し、押さえておきたい主なチャネルを確認します。
中国ECの規模
中国のEC全体の規模は、EC先進国の米国の2倍以上、世界のEC市場の約40%を占める世界最大のマーケットです。2021年には日本円にして2,200兆円超えの規模になり、そのうち越境ECのシェアは9%弱、約195兆円です。
越境ECで人気の国のトップ3は日本、米国、韓国で、人気のカテゴリを順にあげると「化粧品・医薬品」「ファッション」「食品・飲料」です。中国にはない外国のブランドやオリジナル製品、海外製の飲食料品が購入されています。
ちなみに中国EC全体では、人気なのは順に「玩具・ホビー・DIY」「ファッション」「食品・パーソナルケア・家電」です。越境ECとおおむね傾向は似ているものの、リビングカテゴリの商品の需要が多くみられます。
中国の主なプラットフォーム
EC展開においては、大手ショッピングモールへの出店が一般的であり、各国・地域ごとに有力なプラットフォームが存在します。
中国では、経済発展とともに巨大なECプラットフォームが複数出現しました。現在、中国ECの市場は、以下の3つのECプラットフォーマーで大半が占められます。
- 天猫/Tmall.com(Alibaba傘下)
- 京東/JD.com(JD傘下)
- 拼多多/Pinduoduo.com
ほかにも、個人間のマーケットプレイスとして有名な淘宝網/Taobao.com(Alibaba傘下)、中古品取引のフリーマーケットの閑魚といったプラットフォームも存在します。
2. 中国EC参入のポイントと越境ECプラットフォーム
ECを展開する場合、事実上、中国のECプラットフォームを利用することになります。中国で自社独自のECサイトを開設したり、中国外のECサイトから中国の消費者に販売したりすることは出来なくはありませんが、諸々の問題があり難易度は高めです。新規参入するのであれば、中国のプラットフォーム出店を検討するのがセオリーです。
越境ECを行う2つの方法
- 現地法人を設立しECプラットフォームに出店
- 越境ECプラットフォームに出店
一つ目の方法ならば、中国の国内販売の位置づけとなり、中国の一般的なECプラットフォームに出店できます。つまり、中国の一般消費者の認知と利用機会が得られるのが最大のメリットです。最大手のT-mallであれば、比較的早めの立ち上げが可能です。
次点として、外国企業でも出店可能な越境EC専用のプラットフォームを使う方法があります。こちらならば、中国での法人登記や小売業許可の取得などの手続きが不要なため、負担はやや軽いです。
中国政府は越境ECを奨励しているものの、近年は新規出店の条件が厳しくなってきています。場合によっては、日本の代行会社に手数料を払い、販売してもらう方法もあります。
次に、外国企業には比較的取り組みやすい、越境EC専門の主なプラットフォームを紹介します。
越境ECの主なプラットフォーム
中国には越境EC専門のプラットフォームがいくつかあり、現地法人設立や小売業許可の取得などをせずとも出店できます。
中国の主要な越境ECプラットフォームのトップ3は以下のとおりです。
- 天猫国際/Tmall Global(Alibaba傘下)
- 考拉海購/Kaola(同上)
- 京東国際/JD Worldwide
天猫国際と京東国際は総合ECの越境EC版、考拉海購は越境EC大手の一角です。天猫国際と考拉海購の2つで中国の越境EC市場のほぼ半分を占めます。
それぞれのプラットフォームによって客層や得意分野がやや違います。商品の販売形態はプラットフォーマーが仕入・販売する直販方式と、独自のECストアを開設する出店方式があります。
3. 中国ECの新たなトレンド
中国では経済成長にともなって消費者の成熟化と嗜好の細分化が進行し、SNSのコミュニティが消費行動に影響するようになっています。ECにもその影響が及んでおり、越境 ECの展開にあたって留意したいところです。
「中国モノ」がトレンドに
これまでの中国にはなかった消費傾向が若い人の間で見られるようになりました。「国潮」と呼ばれる現象で、中国の若者による自国ブランドの支持や中国文化への共感が広まっています。
前の世代に根強かった外国産への信奉は、中国産の品質向上で若者にはフラット化し、国産ブランドが無理なく受け入れられています。国潮は古風な中国文化の再興ではなく、伝統文化の要素をモダンにアレンジしたデザインがトレンドです。特定のカテゴリでなく、ファッションや化粧品、食品などECで扱われるすべての分野に広がっています。
国潮ブームはSNSによるプロモーションやコミュニティ形成のほか、昨今の国際情勢、たとえば米中貿易摩擦やパンデミックを遠因とする国際物流の停滞が影響したようです。
私域運営(オウンドメディア)/私域流量(プライベートトラフィック)
豊かな時代に成長・成人した中国の若者達は、各人各様の消費を取り始め、市場の細分化が進みつつあります。同じ趣味・嗜好を持つ者が集まるコミュニティを形成し、SNSで交流したり情報交換したりするのが目立ちます。こういったコミュニティで支持を広げ、一躍人気になったブランドもあります。
消費者による自然発生的な交流のほか、企業が「私域運営(オウンドメディア運営)」でフォロワーを集め(「私域流量(プライベートトラフィック)」)、情報提供して集客につなげる事例が出ています。ECプラットフォームに掲載する広告から自社ECに誘導する「広域流量」と違い、私域流量は集客費用が低く済む利点があります。
典型的な例は各種SNSの公式アカウントでKOL(インフルエンサー)を通し情報発信・拡散するもので、なかには、有用な独自アプリ(コンテンツ)を呼び水に商品購入を誘導する事例もみられます。
4. 最近の中国の主な法規制
近年、中国では消費者保護を目的とした規制の強化や、法整備が進められています。
目新しいものでは、諸外国にならって制定された個人情報保護法、急成長中のライブコマースの法規制があげられます。
中国の個人情報保護法
2021年11月に個人情報保護法が施行されました。同法に先立ってデータセキュリティに関するいくつかの法律が制定され、その後、データ対象を個人情報に限定した個人情報保護法が定められました。
中国の個人情報保護法は中国域外にも及び、中国で消費者向け事業を展開する外国企業にも適用されるため制度対応が必須です。同法では中国での個人情報取り扱い・手続きのほか、中国で取得した個人情報の持ち出し制限についても規定されています。
ライブコマース管理弁法
中国でSNSのライブコマースが急成長しているが、ライブコマースで紹介された商品と異なる商品が届くなど、消費者トラブルが多発しています。しかもライブコマースの場合、出品者やライバー(実演者)、MCN(マネジメント・プロダクション)、配信プラットフォーマーと関係者が多く、責任の所在があいまいな点も問題でした。
2021年5月に「ライブコマース管理弁法」が施行され、虚偽説明や誇大広告、消費者の権利保護、各種法令の遵守など、提供者が守るべき規範が定められました。大手MCNが独自の管理規定を設けるなど、一定の効果が現れるものとみられます。
まとめ
中国EC市場はこれからも成長が期待できる魅力的なマーケットです。日本から中国市場に参入する手始めとして、越境ECに挑戦するのも一つの方法です。
越境EC事業に興味がある、または海外諸国のECの展開で気になる点がありましたら、お気軽にお問い合わせください。